
特別目的会社(SPC)は、企業が特定の資産や事業だけを切り出して管理・資金調達を行うためのプロジェクト専用法人です。親会社と資産・負債を分離することで倒産隔離の効果を得つつ、ノンリコースローンや資産担保証券(ABS)で外部資金を呼び込みます。
さらに、資産流動化法を満たす特定目的会社(TMK)なら、配当損金算入(パススルー課税)の特例で法人税を実質ゼロに抑えられます。
この記事では「SPCとは」「特別目的会社とは」の基礎から、活用シーン、設立手続、税務・会計、成功と失敗の事例までを体系的に解説し、税理士視点で押さえるべき実務ポイントを示します。
1. SPC(特別目的会社)とは?
SPC は、特定プロジェクトに必要な資産の取得・保有・運営だけを目的に設立される法人です。親会社は重要資産をリングフェンスし、信用力を温存したまま大型ファイナンスを実現できます。TMK 方式なら利益の 90 % 超を配当すれば法人税が課税されない導管体制(パススルー課税)が認められる点も魅力です。
1-1 定義と目的
- ・資産を SliC へ移転し、ABS や社債・匿名組合出資で資金を調達
- ・親会社破綻時でも SliC 資産は差押えを受けにくく、投資家保護が厚い
- ・大型不動産やインフラ案件を小口証券化し、幅広い投資家層を呼び込む
1-2 SPCとTMKの違い
| 区分 | SPC(広義) | TMK |
| 根拠法 | 会社法/資産流動化法 | 資産流動化法 |
| 主目的 | 多目的資金調達 | 資産証券化専用 |
| 法人税 | 通常課税 | 90%超配当でゼロ可 |
| 届出 | 原則不要 | 計画届・業務開始届必須 |
2. SPC が活用される主な場面
SPC は「高額資産 × 長期キャッシュフロー」の案件で最も効果を発揮します。不動産証券化、再エネ発電、M&A ファイナンスに加え、航空機リースやデータセンター開発などにも用途が広がっています。ESG 資金の流入により、SPC を用いたグリーンボンド発行が活発化している点も近年のトレンドです。
2-1 不動産証券化・J-REIT スキーム
- ・オフィスや商業施設を SliC に譲渡し、賃料を裏付けに ABS を発行
- ・上場 REIT は投資法人方式、私募ファンドは TMK や GK-TK が主流
- ・オフバランス化でスポンサーの自己資本比率を保ちつつ追加投資を実現
2-2 プロジェクトファイナンス(再エネ等)
- ・GK+TK で優先劣後構造を設計し、売電収入を原資にノンリコースローンを調達
- ・FIT(固定価格買取制度)による安定 CF が金融機関の融資ハードルを下げる
- ・グリーンボンド併用で資金コストを低減し ESG 投資家を呼び込む
2-3 M&A・事業承継スキームの器
- ・買収用 SliC が LBO ローンを組み対象株式を取得、対象企業 CF で返済
- ・事業承継では株式を一時的に SliC が保有し分割譲渡して税負担を平準化
- ・不採算部門を SliC に切り離してスポンサー本体の財務健全性を保持
3. SPC を規定する法制度と行政手続
TMK スキームでは金融庁(財務局)への届出と厳格な情報開示義務を負うため、書類不足や補正対応が調達スケジュールを遅延させないよう注意が必要です。
3-1 資産流動化法(SPC 法)の概要
- ・1998 年施行、2001 年改正で対象資産を債権・設備へ拡大
- ・投資家保護のため役員構成・優先劣後比率・議決権制限を詳細に規定
- ・デジタル証券解禁によりブロックチェーン上の持分移転を容認
3-2 資産流動化計画の届出と変更手続
- ・設立時に計画書を提出、財務局ヒアリングで質疑応答
- ・資産追加や社債条件変更は 9 条届出で再承認が必要
- ・無届変更は業務停止命令・課徴金リスク
3-3 解散・清算までの義務
- ・証券償還後に清算人選任、債権者保護公告を実施
- ・清算決算と法人税・消費税申告を完了後、清算結了届を提出
- ・登記抹消で法人格消滅、プロジェクト完了
4. SPC 設立のステップとスケジュール
SPC 設立は「企画→登記→届出→資金調達」の 4 段階で、計画届がボトルネックになりがちです。添付書類不足は補正指示で 2–3 週間ロスするため、余裕あるスケジュールを組みます。
4-1 設立準備:資産流動化計画・事業概要書
- ・資産評価、CF 予測、リスク分担、配当方針を詳細に記載
- ・役員・監査人・サービスプロバイダー(マスター servicer 等)の役割を明確化
4-2 設立登記・金融庁届出
- ・株式会社設立後、資産流動化計画を提出し業務開始届を提出
- ・第二種金融商品取引業や投資運用業の登録が必要な場合は並行対応
4-3 開業後に必要な会計・監査対応
- ・四半期レビューで利益予測を早期把握し 90 % 配当を確実に実施
- ・電子帳簿保存法に対応し、証憑をクラウド保存して監査負荷を軽減
5. SPC の税務・会計ポイント
SPC には「90 % 超配当のパススルー課税」「消費税還付」「登録免許税軽減」という 3 大節税インパクトがあります。一方、関連当事者取引の開示や減損テストの頻度など、通常会社以上に厳格な会計規律が求められます。
5-1 パススルー課税の適用要件
- ・利益の 90 % 超を当期に配当し損金算入
- ・期末後 3 か月以内に配当決議・支払
- ・特例届出書と明細書を法人税申告に添付
5-2 法人税・消費税・登録免許税の取扱い
- ・法人税:要件充足でゼロ、留保利益は通常課税
- ・消費税:課税売上計画で仕入税額控除を最大化し還付を狙う
- ・登録免許税:SliC 法特例で所有権移転が 0.3 % に軽減
5-3 会計処理と監査の留意点
- ・資産・負債をプロジェクト単位で区分し外部流用を防止
- ・減損テストや引当金見積を四半期で再評価し配当額を精緻化
- ・電子契約・請求書を活用し監査人への証憑提示を効率化
6. SPC を活用するメリット・デメリット
倒産隔離・大規模資金調達・節税を同時に実現できる一方、設立コストやガバナンス負担も無視できません。案件規模が小さい場合は IRR 計算で費用対効果を検証すべきです。
6-1 メリット:リスク分離・資金調達効率・節税
- ・親会社倒産時も SliC 資産を保護し事業継続性を担保
- ・オフバランス化で自己資本比率を改善し格付を維持
- ・90 % 配当・税率軽減で投資家利回り向上
6-2 デメリット:設立コスト・コンプラ負担・清算リスク
- ・登記・届出・専門家報酬で初期費用が膨らむ
- ・四半期報告や AML・KYC で運営コストが継続
- ・清算時に資産売却が市況悪化で長期化する恐れ
7. 当事務所で支援した事例と注意点
当事務所は TMK スキームを中心に年間 30 件超の SPC 案件を支援しています。「計画設計を緻密にし、モニタリング体制を最初から整える」ことが成功案件に共通する要素でした。
7-1 不動産証券化で税負担を▲90 %に抑制した例
- ・商業施設を TMK に移転し ABS で 200 億円調達
- ・90 % 配当と登録免許税軽減で税負担を 9 割削減
- ・追加増資も同一 TMK で実行し手続コストを最小化
7-2 パススルー要件漏れで追加納税となった反省点
- ・配当率 85 % で法人税が課税、500 万円追納
- ・決算早期化と利益予測精度向上で翌期から要件復活
7-3 監査対応を見据えた経理体制構築のポイント
- ・月次決算 10 営業日ルールで経営判断を迅速化
- ・電子契約・ワークフロー連携で証憑管理を一元化
- ・監査法人と事前協議しチェックリストを共有、指摘ゼロを実現
8. まとめ|SPC スキームの設立は専門家と二人三脚で
SPC は倒産隔離と大規模資金調達を同時に実現する強力なスキームですが、届出・報告・配当要件を逸脱すると資金繰りや税負担が悪化します。当事務所は企画から清算まで一気通貫で支援し、税効果と資金効率を最大化する提案を提供します。
8-1 要点早見表
| SPCの基本 | SPCとは特定の目的(資産流動化やプロジェクト遂行)のためだけに設立される法人で、リスク分離や資金調達の効率化に用いられます。 |
| SPCとTMK | SPCは広い概念で、会社法ベースでも設立可能。特定目的会社(TMK)はSPC法に基づき資産流動化専用に設立されるSPCで、パススルー課税など特例が適用されます。 |
| 活用場面 | 不動産証券化、再エネ事業のプロジェクトファイナンス、M&Aや事業承継などでSPCが活躍。親会社から資産やリスクを切り離し、オフバランスで大規模資金調達が可能。 |
| 法制度と手続 | TMK方式では資産流動化計画を策定して金融庁に届出が必要。計画に沿った運営が求められ、終了時には解散・清算まで行政手続きを履行。 |
| 設立ステップ | 専門家と事前計画を練り、会社設立登記→金融庁届出→業務開始の順に進みます。開業後も会計・税務・監査対応の体制整備が欠かせません。 |
| 税務・会計ポイント | 90%超配当など条件を満たせば法人税は実質ゼロ(パススルー)。消費税還付や登録免許税軽減などの特例も活用可能。経理は少数精鋭でも正確性と透明性を維持。 |
| メリット・デメリット | メリットはリスク隔離・大口資金調達・節税等。デメリットはコスト増・手続煩雑・清算時のリスク等。案件規模と目的に応じてSPC活用の有効性を判断すべき。 |
| 実務上の教訓 | 税効果を高めるには要件遵守が不可欠(配当漏れに注意)。経理・監査対応は初期から専門家と体制構築を進めることが重要。 |
8-2 無料相談のご案内
税理士法人 T&A コンサルティングは、SPC 計画策定、行政届出、経理・決算、監査対応、清算までフルサポートします。無料相談にて案件概要を伺い、最適スキームと費用試算を迅速に提示します。お気軽にお問い合わせください。(繁忙時期などは設立後の運営・管理の依頼相談のみ可能です。)